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[短歌鑑賞]ならべるとひどいことばにみえてくる頑張れ笑え負けるな生きろ/岡野大嗣

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Amazonでサイレンと犀を購入すると、特典に安福望さんのポストカードがついてきた。安福望さんはこの本の装画と挿し絵を描いている方で、神戸の西の方、多分きっと明石に近いところに住んでいると思われる。 食器と食パンとペンというブログは僕の超お気に入りで、いつか自分の句や歌をとりあげてもらって、こんな風に絵を添えてもらったらどんなに幸せだろうと想像を膨らませている。

なにしろ、とにかく、そんな大好きな安福さんが絵を描いた本であって、また、岡野大嗣さんの歌に惹かれている自分がこのサイレンと犀を買わない理由はない。発売日がとっても待ち遠しかった。

ならべるとひどいことばにみえてくる頑張れ笑え負けるな生きろ
岡野大嗣(twitter/blog「第2ファスナー」)
サイレンと犀 (新鋭短歌シリーズ16)

会話の締めくくりの「がんばってくださいね」という言葉ほど便利なものはないと思う。気軽に放って言葉は瞬間に気化してしまうのに、言われたほうにはずぶっと刺さる。

頑張れ、ということは、頑張っていないということなのか。自問自答、しばらくを哲学。「がんばってくださいね」を「がんばっていますね」に昇華させるためには、何をすれば良いのか、何をすれば良かったのか。あと、どれくらいでその線の向こう側に行けるのか、もう少しなのか、まだまだなのか、どうなのか、どうなんだ。

息をするのと同じくらいに、笑っているんだろうし、頑張っているんだろう。負けないようにしているんだろうし、生きている。なのに、なのに。

悪意がないとわかっているから考えてしまう言葉で、ならべると、ふわっとした文字たちだなあと思う。「頑張れ笑え負けるな生きろ」は漢字で「ならべるとひろいことばにみえてくる」はひらがなで書く。対比すると余計にそんなで、「頑張るを頑張らないと」という永遠の迷宮を繰り返して、毎日の終わりに蒼を残して短針と長針の重なりを見送ってしまいそうな気持ちになる。ひどくて、重たい。

いいや、もう、頑張らないでいよう、どうせなら。

そんなことを決めて、「頑張らないを頑張ろう」と考える。そうして振り出しに戻っていく。頑張るを頑張るのも、頑張らないのを頑張るのも難しくて、多分、そんな眉間の皺に「がんばってくださいね」は何度もやってくるのだろうという気がしてしまう。

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