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自分から語るのではなくて、相手から聞いてもらえるようにする会話の工夫

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仕事がなければお金もない。お家騒動がバレてはいけないので自分が経営者になったことも明かさない。勢いだけで社長になって20日目、銀行からかかってきた電話で会社のお金に口座がないことを知る(あるもんだと思っていた)。喧嘩して追い出した二代目は、印刷用のデータを引き上げていってしまうし、残っていたわずかな現金までも「未精算の地下鉄代」だと言って15万ほどを持っていってしまう。「好きなだけ持っていきやがれこんちくしょーとは言ったものの、本当に身ぐるみはがされることになるとは思わなかった。何とかなるだろうと思っていた社長業は、何とかしなければいけないものだとようやく気付いたのは、会社の残高が数千円となり、自分の貯金残高も10万円を割り込んできたころのことだった。

― という自分の苦労話を語りたいのではなくて。

自分のことを伝えるのではなく、相手から聞いてもらえるようにする工夫

そんな窮地で気付いたことが「自分の得意や想いを伝えよう」としたところで、ほとんど誰にも聞いてもらえやしないということ。自分から語るのではなくて、相手から聞いてもらえるようにする会話の工夫が必要だと心得てからはお客さんからの反応も変わるようになったし、期待を寄せていただけるようにもなった。

「僕は書く仕事をしてまして」と言ってしまうのではなく、「8月31日の夜に苦しんだ宿題って何でした?」と問いかけてみる。この問いかけの先に、相手からはどんな返事があって、会話はどんな風に展開されていくだろう? その会話のなかで、自分の得意と、自分が相手に与えられるメリットを想像してもらえるようにする。印象に残してもらえるようにする。「何かあれば」思いだしてもらうのではなく「明確にこういう時に役に立ってくれる存在だ」と「場面」と紐づけて、この会話のなかで覚えてもらうようにする。ただただ愚直に、その方法だけを信じて貫いてきたからこそ、僕はいまでも自分が伝えたいように伝わるのではなく、相手が思った風に伝わるのが事実、だから表現力と想像力は大事という話をあちこちで繰り返し、その会話のトレーニングをご一緒させていただくことも、生業の一つとできるようになった。

この時期、二つ折り名刺を用いて、情報を盛り込みすぎるきらいもある。書かれている情報が多すぎると名刺交換のときに相手からの問いかけが生まれない。名刺は渡すものではなく、交換するもの。なにを伝えるか、ではなく、何を聞かれるようにするかという仕組みを考える必要がある。

引用元:二つ折り名刺の功罪 ~名刺は穴埋め問題を作るように、渡す自分ではなく渡される相手のことを | 川柳をこよなく愛する明石のタコ

かつてこんな記事を書いて、名刺は渡すものではなく交換するもの。書き過ぎて、相手からの問いかけが生まれないものになってしまっては意味がない。だから二つ折り名刺はうちの会社では作らないという自分たちの考え方を伝えたことがある。この記事には多くの方から反響をいただいて、名刺作成はもちろん、チラシやパンフレット、様々な販促物の制作とご提案に声をかけていいただけるようになった。「会話が生まれる」というフレーズに共感してくださるのは、やっぱり商売を通じて人との関わりを大事にしたいと考えていらっしゃる方々で、僕はそのお客様たちの永続的な存続と発展に、心から役に立っていきたいと願っている。

「質問をされるようにする」という会話の想像

あれも伝えて、これも伝えて、とシナリオを考えて会話に臨んだところで、相手は自分の話したことの半分も覚えていてはくれない。ところが、ひとは自分のした質問に対する回答はよく覚えているものだ。会話の運びを考えて、相手から質問してもらえるような流れを考えて名刺交換の場に臨む。その準備によって、相手からの反応が変わるし、反応が変わるから仕事が楽しくなっていく。いい仕組みを循環させていくためには、いつも想像力が優先する。

神戸の街を歩いていて、ああ、もう、このお店や会社はなくなってしまったのかと残念に思うことが多い。熾烈な競争のなかで残り続けているお店や会社というのは、やはり、そこのオーナーなり働いている方なり、ひとの顔が浮かぶものだと思うがいかがだろう。

会話を想像すること、相手から質問をしてもらえる会話を組み立てること。言うのではなく、聞かれるようにするということ。僕が思う商売の基本のひとつを、今日は聞いてほしいと思った。