誰も社内にいないタイミング
金曜日の就業時間内に失踪事件は起きた。
対策を話し合っているうちに、
彼のアドレスにメールが届く。
銀行口座から出金
銀行口座アドレスを変更
iPhoneのさがす機能をオフ
ちゃんと対策をしているなぁ。
呆れと諦め。
一瞬でも、命の心配をした自分たちが馬鹿らしくなった。
*
あいだに連休があって、
今日から激動の日常が始まっていく。
できるのかな。
祝日の月曜日、
フードコートに行って仕事をした。
わざと賑やかな空間を選んだ。
静かな場所にいると落ちてしまいそうになる。
残った我々三人。
それぞれすでに100%以上の業務量だ。
そこに彼の残したものが上積みされる。
そこまでやっても、経営的にはしんどい。
社用車も返ってきていない。
彼の残したものの全容も分からない。
仕事量を減らして
ここから自分の給料をゼロにしたとして
それで会社は立て直せるだろうか
その未来をシミュレーションする
絵が浮かばない
隣のテーブルでは
家族連れがドーナツを食べて笑っている。
*
立場とか年齢とか。
それを考えて、
なんとかしてみせるという顔をする。
でも根っこは、弱い弱い人間。
呼吸が浅くて、
肺はきっと3割くらい縮んている。
星の空気をずっと蒼い息で汚してしまったな。
情けない自分に腹が立ってくる。
そうかと思うと、急に笑えてきたり
次の瞬間には涙が出ていたり。
右へ左へ
上へ下へと心の向きが忙しい
客観的に見れば心が壊れかかっている。
でもちゃんと
客観的に見ている自分がいるので
だいじょうぶ。
こうして書いていると、落ち着いてくる。
今は山のてっぺんが見えなくて
てっぺんを越えたあと
谷底が待っている
その波がしんどいことに気が付く
谷をつくらないよう
草原をつくらないと
その空を見上げられたら
僕たちはきっとOKなんだろうな
*
自分の仕事もあるのに
ご家族のこともあるのに
今の自分があるのは先輩のおかげなので
なんでもします
させてください
なんてメッセージをくれた後輩がいた
その後輩さん以上に私の方が恩義を感じているので
運転手でもなんでもします
なんて笑いながら言ってきてくださる方もいた
「飲みに行きましょうよ」と
残ったメンバーふたりが声をかけてくれた
あえてこのタイミングにそれを言う、
言える
素敵な奴らだなーと思った
ほかにもたくさん
メッセージをいただいた
心配をして
心を寄せてくださる方々がいる
積み重ねてきたものが体温をつくっているんだと思う
あたたかい
*
いつも通り仕事をして日常を過ごしていく
お客さんと向き合うときは
その人と、その人の先にいる人のことを想像する
残った僕たちは想像力のかたまりだ