母の病院へ付き添い。
病院へ行く朝は、やっぱり眠りが浅いらしい。検査も疲れるね。たくさんの祈りが病院の廊下には満ちている。行き交う人たちの顔色も表情もそれぞれだ。自分にはなにができるだろう。母の存在を通じて、命を祈る人たちの気持ちを想像する。いま僕がこの病院の廊下でこの様子を眺めていることには、なにか意味があるんじゃないか。
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「検査、もっとお金がかかると思ってたわ」
すこし脅かされていたので、”そこまで”ではなかったことに母は安堵していた。安心したらお腹が空いて、花を買いたくなったらしい。「らしい」と思う。
「いい先生で良かった」と母は言う。いい先生と思う理由のひとつは、鞄にぶらされている熊のぬいぐるみを認めてくれたからなんだろう。

「あ、じゃあ熊ちゃんは横の椅子に置いてもらって」
そんな呼びかけひとつで、患者の気持ちはずいぶん和らぐ。
相手に関心を持つこと。観察すること。
信頼は会話から生まれるんだな、と思う。

検査が終わってから昼食、花屋へ。
気が付けば、知らない人と花についてお喋りをしている。このコミュニケーション能力はすごいね。相手はいま、この人が病院帰りだとはきっと思わない。元気。